氏子と祭礼

お盆も終わり、ツクツクボウシが秋をつげるころ、「中西(なかにし)のお祭(まち)」がやってきます。下名栗字中西のお諏訪さま、諏訪神社は、埼玉県飯能市大字下名栗地区(旧武蔵国秩父郡下名栗村)の守り神である鎮守です。諏訪神社を共同で祀る氏子(うじこ)は、もともとはこの地区に住むすべての家でしたが、現在では氏子会費を納める家の家族からなっています。諏訪神社の祭礼は1年間に4つ、元旦祭(1月)、祈年(きねん)祭(2月)、例大祭(8月)、新嘗(しんじょう)祭(11月)があります。獅子舞は最大の祭礼である例大祭に奉納されます。江戸時代には太陰太陽暦の7月25日でした。明治になり太陽暦が採用されてからは太陽暦の8月25日に変更されました。平成4年(1992)からは、関係者も見学者もウィークデイに休暇を取りにくい時代となったため、それに近い日曜日となりました。

祭礼は、氏子の役員によって運営されます。氏子の役員には氏子総代と祭典世話掛とが6名ずつおり、下名栗にある6つ(平成26年度〈2014〉からは5つ)の自治会地区から選出されています。そのほかに各地区2名の行事がいましたが、平成10年(1998)からこれに代って祭礼庶務を担当する祭典補助員が8名募集されるようになりました。しかし、その人数は徐々に減って2010年代にはお願いしなくなりました。

獅子舞の配役

現在の獅子舞は、青梅市成木(なりき)の高水山から、30年余の伝習期間を経て天保14年(1843)に正式に伝授されて以来、現在まで休むことなく伝えられています。その配役は、太鼓(枠なしの締め太鼓)を腹につけた大太夫(おだい・金)・女獅子(めじし・赤)・小太夫(こだい・黒)の3匹の獅子を担当する獅子舞役者、4つのスリザサラを担当するササラスリ(ササラッコと呼ばれる、以下ササラと略す場合も多い)、笛(篠笛・七孔四本調子)を担当する笛方(囃子はやし方)、謡(うた)を担当する謡方(うたいかた)からなります。獅子は通常「狂う」と言われるほど舞い方が激しく、成年男子が担当します。獅子頭の重さは、女獅子1.9kg、小太夫2.0kg、大太夫2.5kgです。ササラはもともと小学2年生以上の女子が務めます。平成26年度(2014)からは男子にも依頼するようになりました。ササラの花笠には日・月の造り物と2つの牡丹がつきます。このササラの着付けには、氏子の女性4~6名をお願いしています。笛方は成年男子が担当してきましたが、現在では小学6年生以上ならば、男女を問わず参加できます。謡方は獅子・笛方のベテランがあたります。なお、「御宮参り」には指導者級の保存会員の務める猿田彦命(天狗)、「白刃」にはベテランの獅子舞役者が行う2名の太刀遣(たちつか)い、各芝(しば・演目)には状況に応じてホウイ(はいおい、道化)が露払いとして登場します。太刀とは呼ばれていますがともに長さ57.4cmの長脇指で、重さもともに900gです。令和3年度(2022)に文化庁の地域文化財総合活用推進事業の補助金を利用し、新刀(長脇指)2振を購入しました。古い刀2振は令和6年(2024)に飯能市立博物館に寄贈しました。恐らくこの獅子舞開始以来約200年間使ってきた刀だったと考えられ、そこに民俗的価値が見出されました。

練習と準備

獅子の練習は、遅くとも4月からは定期的に行い、7月になると回数を増やし、初心者も8月に入るまでには基本を会得しておきます。笛方は春に始まり、8月からは獅子と合同の練習となります。

例大祭の準備は、7月の道具調べから始まります。氏子総代、祭典世話掛、獅子舞保存会役員がこれにあたり、獅子舞・例大祭用の諸道具を確認し、例大祭までの準備について話し合います。

8月1日は稽古始めです。この日はササラを含む稽古の本格的な開始日であるとともに、氏子の代表と保存会員全員が顔を会わせ、関係者への必要事項の伝達、保存会新会員の紹介、獅子舞の役割(配役)の発表などがあります。その後の定期練習は、多くは夜間に2日ないし3日に1度設定し、2日間は昼稽古を設けます。その他の日にも適宜練習を入れていきます。

「揃い」の前日は道具づくりがあり、獅子頭やササラの花笠を組み立て、社務所の祭壇にこれらを飾りつけます。夜には稽古仕舞い、稽古の仕上げをします。

祭り当日

揃いの日となる土曜日は、例大祭当日と同じスケジュールで芝を演じます。獅子頭や衣装を着け、本番どおりに行う公開の総稽古(ゲネプロ)にあたります。昭和57年(1982)より毎年1芝(演目)は境内から五区(現浅海戸)字馬場へ出て上演してきましたが、平成14年(2002)からはすべて境内で実施されるようになりました。

その晩にはかつては夜宮がありました。昭和30年代前半までは青年団が中心になって東京都秋川の二宮歌舞伎(現あきる野市・秋川歌舞伎)を呼び上演していましたが、30年代後半からは境内での野外映画上映会へとかわり、さらに名栗村演劇愛好会による舞踊とカラオケの上演へと移行しました。現在夜宮は実施されていません。

日曜日は例大祭です。氏子役員と保存会員は朝早くから社務所に集まり準備をし、万灯(まんどう)をつくります。宮司による出発の儀式の後、獅子舞の奉納が始まります。午前中3芝が演じられ、3芝目の「三拍子」が終わった後、地区の役職者が集まり庭場と拝殿で例大祭の神事式が行われます。平成11年(1999)までは「花懸り」の終了後、「三拍子」を演じている最中に進められていました。神事式には三管(笙・しょう、篳篥・ひちりき、龍笛・りゅうてき)を奏する楽人が登場し、「越殿楽(えてんらく)」・「五常楽急(ごじょうらくきゅう)」などの雅楽を添えます。午後にも3芝が演じられます。最後の芝の「白刃」終了後に千秋楽の謡を歌い、社務所まで戻ってきます。

例大祭の翌日に洗濯などの後片づけをして、祭りはすべて終了します。