下名栗三匹獅子舞の楽器は、篠笛、獅子の太鼓、そして竹で作られたササラからなっています。三匹獅子舞はササラ獅子舞とも言われるとおり、ササラの音が特徴的です。風の音なのか、森のざわめきなのか、スギの大樹に囲まれた神社の境内に不思議な音の世界を作り出します。

すべての芝(しば・演目)は、以下の節で構成されています。

出囃子-①渡り拍子-②揃い-③出端(では)-④チラシ-⑤謡-⑥岡崎-⑦渡り拍子

舞の中心は④チラシで、長時間にわたります。チラシの内容は「3.内容と見どころ」で個々に詳しく解説することとして、ここでは芝全体の節の構成について主に説明しておきます。

芝の進行を統括するのは親笛です。親笛は笛方の最前列に立つ責任者で、節の代り目を笛尻を上げて合図するほか、獅子を見ながらテンポを調整します。笛方は親笛の指の動きを見てこれに合せ、さらに笛の音に獅子の太鼓とササラが合せることで全体が統一されます。親笛は獅子舞のコンサートマスターにあたる重要な役割を担います。

○出囃子

社務所(かつては獅子宿)から獅子行列が出発する合図。全芝に共通。

笛と大太鼓(長胴)で奏されます。下名栗で独自に作られました。笛と太鼓の絶妙な掛合いによる曲で、山を渡る風が、強くまた弱く吹くように響きわたります。「チャヒーチャ、チャヒ」と鋭くおわり、渡り拍子を導きます。なお、このように笛の節回しを擬声的に言い表したものを、下名栗では笛の文句、一般には口唱歌(くちしょうが)やジゴトといいます。

①渡り拍子

獅子の道行き。全芝に共通。

社務所から庭場までの道行きです。現在の社務所は昭和11年(1936)に旧名栗第一尋常小学校(後の東小学校)の裁縫室を移築したものです。それができるまでは、諏訪神社最寄りの岡部家(屋号「中西の上」)を獅子宿として、獅子行列が出発しました*1。この節からは笛、獅子の太鼓、ササラのするスリザサラによって奏されます。⑦も同じ節です。

②揃い

舞への序奏。全芝に共通。

ここからが芝の開始です。庭場に入場した獅子とササラが定位置について動きを止めると、3笛(みっぷえ)渡り拍子を聞いてからこの笛が始まります。獅子の太鼓はリズミカルになり、静から動への緊張感を高めます。最後の「おかざき」の節高い関連性があります。3笛繰り返します。

③出端

序の舞。「御宮参り・御幣懸り」と「三拍子」は固有、他の4芝は共通。

午前の「花懸り」と午後の3芝に共通する出端の節「ヒャーロヒャーヒャートー」が印象的です。この笛にかわると、女獅子が向きをかえます。3笛聞いた後、獅子とササラが庭場を大きく3往復します。3往復目に、庭場の中央に獅子とササラが止り、チラシに移ります。

「御宮参り・御幣懸り」では、固有の出端「トーヒャニヒャニヒャニ」があります。「三拍子」の出端「トーッピーピーヒャロ」も、この芝だけのものです。

④チラシ

中心となる舞。各芝ごとに違う。「花懸り」と「棹懸り」はほぼ共通。

芝の中核となる部分で、笛が同じ節を繰り返す中、様々な内容の舞が展開します。それぞれの内容は「3.内容と見どころ」で説明します。

⑤謡

芝の内容に即した、あるいは内容に掛けた古歌、俗謡。

謡方によって古風な謡が歌われます。歌い出しが3種類あります。一般には聞慣れない節回しですが、歌い出しがわかるようになると、一人で歌えるようになります。歌い出しの節は、謡の始めが五七五、七五、七七のどれによっているかで異なります。それは以下の通りです。

(A) 五七五 七七 (五七五 七五 七五 七七 もあり)

(B) 七五 七七  (七五 七五 七七 もあり)

(C) 七七 七七

「3.内容と見どころ」で示すそれぞれの謡には、ここで示した(A)(B)(C)の記号をつけておきます。なお、(6)白刃の2番だけは例外で、七七 七七ですが(A)の節で歌われます。また、一つの句の終りと次の句の始めとを、同じ音節を重ねて歌うことがあります。その音節は ● 印で示します。

謡の時、笛は休み、獅子の太鼓とササラとが静かに響きます。謡と謡との間奏には短い笛が入り、軽妙な舞が舞われます。

⑥岡崎

納めの舞。全芝に共通。

笛の口唱歌は、この岡崎だけが特殊で、江戸時代初期の流行歌「岡崎女郎衆」を借りています。他地域の獅子舞にもしばしば登場する口唄歌です。

オーカザーキジョーロシーーー オーカザーキージョロシー

オーカザーキージョロシハ ヨイジョーロシー

オーカザーキージョロシハ ヨイジョーロシー

②の「揃い」によく似た節回しで、庭場での始めと終りを意識した構成になっています。揃いとの違いは、1笛の中に「オーカザーキ」という節まわしが4回繰り返されることと、節の終わりの「ジョロシハ ヨイ」の部分で1音1拍ずつ刻むことによって、納めの舞らしい安定感をかもしだしている点にあります。

岡崎の舞は、3匹の獅子が4つの固定したササラの周囲を廻りながら舞います。獅子とササラから構成される三匹獅子舞の納めにふさわしく、統一性の中に、躍動感、即興性を折り込み、みごとなエンディングを演出します。

獅子は1笛目の最後にササラの中をとび出すと、3笛ササラの周りを回ります。上手(拝殿側)で3匹の獅子がいったんそろい下手(鳥居側)へ大きく下がったあと、獅子はササラの中に横1列にそろいます。そこで笛は一度テンポを落として獅子とササラは3笛で庭場の下手まで始めはゆっくり、そしてだんだん早く下がり、舞が終了します。

⑦渡り拍子

①におなじ。獅子の道行き。全芝に共通。

庭場から社務所までの道行きです。