白刃

悪魔払いの祈願をこめた芝です。2名の太刀遣いが登場し、真剣を使って舞いながら獅子の羽を切る場面のある、当獅子舞で最も有名な芝です。獅子が「刀がほしい、刀がほしい」と太刀遣いにせがみますが、太刀遣いは見せびらかすだけでいっこうに渡してくれません。ようやくのことで獅子は刀をもらえ、大喜びで口にくわえて踊り回ります。刀が抜かれてからの数々の所作は、緊張感の連続です。現在使っている刀(長脇指)は、2022年文化庁の補助金により新たに購入しました。

大太夫・小太夫それぞれに太刀遣い(太刀持ち)がつきます。道行きは、この芝だけは社務所を1まわりして出かけます。氏子役員や保存会員も道行きに参加します。途中で鳥居をくぐる時、太刀遣いは鳥居に飾られた榊の枝を折り取ります。出端では3匹の獅子と榊・半紙を手に持った太刀遣いとが優雅に舞います。

チラシに入ると、女獅子は花に隠れ、その左右の庭場を2匹の雄獅子とそれぞれの太刀遣いが向い合いながら往復します。最初太刀遣いが手に持つのは、出端と同じく榊と半紙です。それらを手に持ったまま、獅子を囃すように舞います。2番目に持つのは手拭いと半紙で同じ所作を、3番目は手拭いを両手に張って同様の所作をします。

4番目は刀が鞘から抜けるのを防いでいた紐を切り、刀を抜くまねをしながら刀を獅子に見せびらかす「こじり」という所作を行います。ここで次の刀を抜く所作に連続しますので、庭場に塩がまかれます。「こじり」を2往復したところで、それまでつかず離れず舞っていた獅子と太刀遣いが遠く離れます。太刀遣いは「ハー」と言いながら大きく太刀を抜き、「臨兵闘者皆陣列在前(りんぺいとうしやかいじんれつざいぜん)」と九字を切りながら切っ先を低く獅子に向け、そして高く振りかぶります。そのふところへ獅子は飛び込み、太刀遣いは獅子の頭上で太刀を翻しながら往復します。太刀遣いは片手で刀を自由に扱い、大きく優雅に舞います。刀を返して使う時、獅子の羽を切り、その羽が舞い落ちます。

5番目は特に名称はついていませんが「見せびらかし」といわれています。太刀遣いは獅子に「ほしいだろう、ほしいだろう」と刀を頭上高く掲げ、立てたり寝かしたりしながら、獅子を挑発します。これを3往復行います。

6番目は「手・足・切っ払い」で、見せびらかしの変形です。太刀遣いは刀を自らの腕にあてて1往復、足にあてて1往復、そして最も危険な「切っ払い」で2往復します。「切っ払い」では、上手から下手へ動く際は、接近して舞う獅子との間を刀をすくい上げて高く見せびらかし、下手から上手へは「追い返し」といい、獅子を文字通り追い返します。

7番目は「くぐりあい」です。刀の柄を右手で、左手で切っ先付近に半紙を被せて持ち、獅子の羽にからめながら2往復舞います。この復路も追い返しと呼ばれます。下手・上手ではそれぞれ太刀遣いと獅子とが交差する「半くぐり」・「本くぐり」を1回ずつ行います。その後、太刀遣いが大きく振りかぶり、獅子が飛び込んで、獅子はついに念願の刀をもらいうけます。

刀を得た獅子は、水引の上から役者自らの歯で、半紙を巻いた刀の抜き身(もちろん棟・峰側)をくわえ、喜びを身体いっぱいに表わしながら、大太夫と小太夫とが連れ立って庭場を斜めに横切ります。庭場の下と上の位置で、獅子同士が背中を合せ、伸び上がりながら向き合いうなずき合う「半くぐり」・「本くぐり」の所作は、極めて危険な場面です。2往復した後、下手に待つ太刀遣いに刀を返すと、花の中から女獅子も飛び出して、3匹で解放感にひたって晴れ晴れと、また激しく舞います。しばらく3匹で舞うとチラシが終わります。

大太夫・小太夫の役者は刀を歯でくわえるため、その重みで歯茎から血が出ることもあるほどです。切った獅子の羽は、小分けにして見学者に配られます。これは悪魔払いの意味があり、お札(ふだ)やキーホルダーにも入れてあります。獅子が刀をくわえる時に使った半紙は、役者が自宅に持って帰り、神棚に供えて、無事白刃を演じられたことを報告、感謝します。



(A) この獅子は 悪魔をらふ しなれば あまりるふて つのらもがすな
(A) 天からりし 唐の屏風 ひとへにらりと 押しひらかいな
 てん/からく くーだりし/かーらえ えの/びょうぶ    
(A) 日は暮れる 道のさだに 露がゐる おいとまして いざやともだち

例大祭では岡崎が終わった後、獅子・ササラを中心に庭場に関係者が勢ぞろいし、社殿に向かって千秋楽の謡を歌い、三・三・一の七ツ締を行います。



千秋楽にはたみをのべ 万歳楽には命をのべ
あいに相生(あいおい)の松風
さつさつのこゑぞたのしむ さつさつのこゑぞたのしむ

千秋楽の後、すぐに獅子行列を組み、渡り拍子で社務所に戻り、獅子舞はすべて終了します。